研究紹介
現在、研究室で行っている研究と、これまで取り組んできた研究についてテーマ別に紹介しています。そのテーマは群集生態学、進化生態学、生態系生態学など多岐にわたりますが、様々な理論やツールを総動員して課題解決を目指すのが私の目指す研究のアプローチです。
植物群集の多種共存と遷移
植物と土壌に関係に着目して、なぜ多様な植物の種類がなぜ共存できているのか、また、なぜ植物の樹種は時間とともに移り変わるのかについて研究しています。植物は付近の土壌の物理化学的な性質や土壌の微生物群集など環境を変え、その変化した環境がその場所における次世代の植物の生存や成長に影響を及ぼします。これを「植物ー土壌フィードバック」と呼び、実験的なアプローチを用いて、土壌微生物の役割に着目する点が私の研究の特徴です。これまでは菌根菌と呼ばれる根の共生菌に着目した野外実験を中心に展開してきました。現在は、地球温暖化などのさまざまな環境変化が植物土壌フィードバックを変化させ、森林の動態にどのような影響を与えるのかに最も興味があります。より包括的な観点から、土壌の菌類だけでなく、細菌やウイルス、地上や地下の動物など多様な生物がどのようにフィードバックに関与しているのかを理解したいと考えています。
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空間における動物群集の共存機構(メタ群集の生態学)
昆虫を主な材料として、動物群集の多種共存機構を調べています。興味深い自然史の現象を群集生態学として新規性と結びつける研究を目指しています。これまでは、パッチ状環境のモデルシステムとして、きのこに集まる昆虫群集の多種共存について研究してきました。メタ群集理論の考え方を用いて、競争能力と分散能力のトレードオフや、きのこの空間分布が昆虫の多様性に与える影響などを検証してきました。とくに空間的・時間的に変動するパッチ状環境における多種共存機構や、進化生態学に興味を持っています。
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生態系のレジームシフトと代替安定状態
なぜ、一見安定して見える生態系が何らかの出来事をきっかけとして突如として崩壊することがあるのでしょうか。こうした突発的かつ非線形な生態系の変化は、世界各地の様々な生態系で報告されており、レジームシフトと呼ばれています。レジームシフトが一度生じると生態系の回復に膨大なコストがかかるため、早期警告シグナルを開発してレジームシフトの前兆を検知したり、一度崩壊した生態系を再生するための具体的な手法を開発したりすることが求められています。群集生態学と生態系生態学の知見をうまく融合することが、それらの目的を達成する鍵になると考えています。安定性やレジリエンスなど生態学の核となる概念と密接に関わる現象であるため、レジームシフトの理論から多くのことを学ぶことができます。
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長期植生データ解析からみた森林生態系のダイナミクス
京都大学芦生研究林の長期植生データ解析を通じ、シカによる食害が深刻になっているサイトにおいて、樹木群集の動態を調べています。毎木調査・実生調査・種子トラップ調査などのデータをさまざまな角度から検証することで、森林構造と動態を決定づける要因に迫りたいと考えてます。シカの影響を直接的に検証するためシカ柵を設置したサイトも複数あり、植生・土壌・水質・河川動物までさまざまな調査が行われ、研究の蓄積があります。操作実験と組み合わせることで、より強力な仮説検証を行なっていきたいと考えています。シカによる食害が炭素窒素循環にどのような影響をあたえたのかについて解析していますが、土壌微生物への波及効果などさらなる研究の展開が期待されます。
微生物を用いた生態学理論の検証
微生物、とくに細菌を用いて、群集生態学や進化生態学の概念実証を行うことを目指しています。細菌は世代時間が短く、生態や進化の研究をおこなうための良いモデル系となります。実験室で多数のウェルからなるプレートを用いることでハイスループットで細菌の個体群動態を調べることができ、メタ個体群やメタ群集など複雑な環境設定も実現できます。冷凍保存しておけば、何度も進化実験を行うことができるのも大きなメリットです。これまでの研究では、緑膿菌を用い、相互作用の環境依存性を検証したり、シデロフォアを公共財とする協力関係の進化維持機構の解析を行ってきました。理論家との共同研究により、時系列解析から進化を読み解く試みも始めています。
流域スケールでの土地利用と水循環:生態系サービスの面的評価へ向けて
生物多様性と生態系プロセスの関係を紐解くことは、生態学における重要な課題です。これまでの研究から、ある地域における生物多様性と生態系プロセスはいずれも一つの指標で表現できるほど単純なものではないことが明らかになりつつあります。したがって、それらの間の関係性を理解するためには、空間的な広がりと異質性を組み込み、地域を面的にとらえるアプローチが避けては通れません。ビッグデータを生かした生態系と生物多様性の大規模シミュレーションによって、より包括的な生態系サービス評価を目指すための取り組みをはじめています。H08水資源モデルを用い、日本全国を代表する32河川流域において、土地利用の変化が河川水量にどのような影響を与えたのかについて解析しています。